
中国から新たな感染症大流行が始まる恐れがある
世界保健機関(WHO)は5月5日、新型コロナウイルスに関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を終了すると発表した。日本では8日から、感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類感染症」に格下げとなった。
丸3年以上の我慢を経て、ようやく日常の暮らしが戻ろうとしている。
ところが、次のパンデミックを招きかねないとして、アメリカで危機感が広がっている。中国のウイルス研究所やワクチン工場では、いまだにずさんな管理体制がほとんど改善されていないようだ。
米ワシントン・ポスト紙は4月、中国の研究所などの不十分な管理体制を指摘したうえで、また新たなパンデミックが巻き起こるおそれがあると指摘した。記事は「中国で研究所の安全性確保が難航し、新たなパンデミックの危険を広めている」と題されており、強く危機感を訴えかける内容だ。
同紙は、アメリカや世界の科学者・議員たちにより、中国のラボの安全性をめぐり複数の徹底した調査が実行されたと述べている。綿密な調査の結果、「死を招く病原体がこれまでに流出しており、さらには今後再発するおそれも十分に高く、場合によっては新たなパンデミックを誘発する懸念があるとして注目を集めている」と同紙は警鐘を鳴らす。
1万人が感染し、激しい痛みと発汗…中国の研究所で起きた漏洩事故
ずさんな管理体制を示す具体例として同紙は、2019年の夏に内陸部・蘭州市の医薬品工場で発生した、病原体の漏洩事故を取り上げている。工場からわずか1ブロックの距離に住む39歳の男性は、2019年の秋、健康状態が不可解に悪化したと振り返る。
男性は中国国営ニュースサイトに対し、「激しい背中の痛み、発汗、眠気、そしてむくみに悩まされました」と語っている。男性は入院し、その後数カ月にわたり、抗生物質の投与を受けることとなった。ブルセラ症だった。
この感染症は、汚染された乳製品の摂取やエアロゾルの吸入などを原因として、ブルセラ属菌を体内に取り込むことで発症する。主にインフルエンザ様の症状を呈するが、まれに心内膜炎が生じるなどして死に至るケースがある。
ワシントン・ポスト紙によると、甘粛省の保健当局が調査したところ、7万人近い検査対象者のうち少なくとも1万人が陽性反応を示したという。男性は「私の知る限り、この地域のほぼすべての家庭に感染者がいます」と語る。
中国政府は「感染症史上最大の実験室事故」を隠蔽
問題の医薬品工場は、ブルセラ症のワクチンを製造していた。周囲には高層マンションが立ち並ぶ立地上、一度漏洩が起きたなら住民に多大な影響を生じることは明らかだ。だが、生物学的な処理体制は明らかに不十分だった。
このワクチンの製造においては、発酵タンクに生きた細菌を投入し、工程の最後に化学消毒剤を用いて病原体を死滅させる。だが、地元メディアの情報を基にワシントン・ポスト紙が報じたところによると、工場は2019年7月以降、使用期限を大幅に超過した化学物質を使っていたという。廃棄物処理の工程が設計通りの水準で機能せず、多くの細菌が生きたまま外部へ排出されることとなった。
ギリシャの感染症専門医であるゲオルギオス・パッパス氏は、報告書を通じ、「排出された気体には、エアロゾル化しやすいことで知られる病原体が含まれており、それが南東の風に乗って運ばれた」と指摘する。結果、「感染症史上最大の実験室事故となった」という。
だが、政府の隠蔽体質がこの一件の情報拡散を封じた。事故から3年以上が経ったいま、1万人以上が漏洩により健康被害を受けたというデータは、公式な記録として残っていない。パッパス氏は「まるで患者が存在しなかったかのようです」と憤る。
アメリカ政府が「新型コロナは中国から広まった」と主張する理由
新型コロナウイルスの起源をめぐっては、これまでに、野生動物や市場を発生源とする自然由来説が提示されている。一方、武漢のウィルス研究所からの漏洩が原因だとする説も、いまだにアメリカの複数の政府機関から支持されている。
米国営ラジオ放送局のボイス・オブ・アメリカはパンデミックの到来から間もない2020年4月の時点で、1500種以上のウイルスを保管する武漢の研究所が「少なくとも2年前から、米政府関係者のあいだで懸念の種となっていた」と指摘していた。
武漢大学のヤン・ジャンキ病原体生物学部長は2020年2月、中国国営メディアの環球時報によるインタビューに応じ、「中国の研究所は生物学的廃棄に十分な注意を払っていない」と指摘している。研究所から排出されるゴミには、人間を含む動物に致命的な影響を与えるおそれのある人工的なウイルスや、細菌・微生物が含まれていることがあるという。
同紙はまた、2004年に別のコロナウイルスの漏洩が起きていたと振り返る。SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスの小規模な感染が発生しており、これは研究所におけるウイルスの不活性化処理が不十分であったために発生したものであったと同紙は指摘する。