
12月22日からNetflixのオリジナル韓国ドラマ『京城クリーチャー』の公開がはじまった。
全10話で計700億ウォンの制作費が投資された本作は、日本の植民地時代の京城(現ソウル)を舞台に、日本の残酷な生体実験で誕生した「怪物(クリーチャー)」と立ち向かう2人の男女の話を盛り込んだホラーサスペンスで、華麗なキャストとスタッフが勢揃いした、今年下半期のネットフリックス最大の期待作だ。
超話題作だが内容に酷評も
「日本軍特殊部隊による生体実験で作られた怪物(クリーチャー)」という素材は、2015年制作のパク・ボヨン主演の映画『京城学校 消えた少女たち』から借用したアイデアと言えなくもないが、韓国ドラマ界を代表するスタッフと俳優の共同作業という点はドラマファンにはたまらない魅力だ。
脚本は日本でも人気を集めた『製パン王 キム・タック』、『浪漫ドクター キム・サブ』のカン・ウンギョン、制作は『愛の不時着』で有名なスタジオドラゴン、そして主演が『梨泰院クラス』のパク・ソジュンと今韓国で最もホットな女優ハン・ソヒという豪華な顔触れ。そのため制作発表当初から大きな期待が寄せられていた。
実際、公開初日の22日にはワールドランキング6位に入り、25日現在は2位まで上がるなど順調な滑り出しを見せた――ように見えた。
しかし実際には、公開されたとたん韓国内では酷評が溢れだしていた。期待が大きかった分だけガッカリ感が強かったのかも知れない。
「時代劇としては斬新さに欠け、アクションものとしては打撃感が弱い。余分なものが多く『分量減量』が必要だ」(クッキーニュース)
「700億ウォンもかけてどうする……無色・無臭・無味の『京城クリーチャー』。ドラマが平凡、奇抜なアイデアを全く奇抜でない展開で表現した」(JTBC NEWS)
「京城時代劇と怪物ものという複合ジャンル物で二兎を捕まえようとしたが、欲が“惨事”を起こした。(Tv daily)
主演女優ハン・ソヒに日本から批判殺到
そんな悪評が渦巻く中、本作のヒロインのハン・ソヒが、インスタグラムにアップしたコメントが多くの日本人から反感を買っている。
韓国での報道によると、ハン・ソヒは12月24日、インスタグラムに以下のような投稿文を掲載した。
「京城のロマンスではなく、日本軍のクリーチャーでもなく、人間を手段化した実験の中に生まれた怪物と立ち向かう当時の人々の物語は、きらびやかだが暗いものだった。お互いを愛をもって抱きしめ合うことでしか強くなれなかったその年の春」
ハン・ソヒは、この文章を、1909年に中国のハルビン駅で伊藤博文を狙撃した安重根(アン・ジュングン)の写真と一緒にアップしたのだ。
これを見た日本のファンらが、ハン・ソヒのインスタグラムのアカウントに批判のコメントが殺到した。
「安重根はテロリストです。ファンやめます」
「今もこの時代を生きてる人たちにいつまで歴史のことを背負わせるのですか? 韓日関係の対立をあおってこれからの未来ある若者たちにまた反日感情を植え付けるのですね。本当にがっかりです」
「安重根を載せるのは違うと思います。これでは反日と思われても仕方ないと思います。残念です」
日本人のファンが沢山いることをわかったうえでこのような投稿することが残念です」
といった辛辣なコメントが多数寄せられた(もちろん、ハン・ソヒのコメントを支持する意見も、韓国人からだけでなく、日本人からも寄せられている)。
音楽監督がハン・ソヒを援護
こうしたリアクションに対してもハン・ソヒの態度は揺るがなかった。「悲しいけど、事実」とコメントし、発言を撤回する意思がないことを明らかにしたのだ。
これに触発されたのか、『京城クリーチャー』の音楽監督も24日、自身のSNSにこんな書き込みをした。
「パク・ソジュンとハン・ソヒは、撮影中ずっと、これからは日本には行けないという思いで撮影に応じていた」
ハン・ソヒの撮影にかける覚悟と信念の強さを世間に伝え、彼女への援護射撃としたかったのだろう。
湧きあがる韓国のネット世論
こうした経緯を見ていた韓国のネットユーザーたちの心にもさらに火がつた。いま韓国のネットにはこんな言葉が溢れている。
「愛国女優のハン・ソヒさん、全国民が応援しています」
「日本は過去の歴史を謝罪せよ」
「呆れる、韓国人が安重根義士の写真を載せるのがなぜ間違っているのか? 嫌ならファンをや「韓国人が反日なのがなぜ問題か」
「私は日本がテロ国家だと思う」
「歴史を忘れた民族に未来はない」
こんな具合でいまネット上では日韓の歴史問題を巡る論争が展開されている。
めればいい!」
「反日マーケティング」が疑われる素地
一方で、ハン氏と音楽監督がドラマを宣伝するために“反日マーケティング”を行っているのではないか、という疑念の声も上がっている。
主に芸能人のファンやK-POPファンが集まるコミュニティサイト「theqoo」では、こんな反応が溢れている。
「このドラマは面白くないと悪口を言われている。クッポン(愛国主義)を利用して宣伝しているのがバレバレだ」
「変なメディアプレイはやめろ! 視聴者が判断する」
「薄っぺらだ」
「愛国マーケティング? 実際の内容は日本が好きな内容や素材が多いけどね」
「独立運動を題材にしたドラマや映画に出演する韓流俳優は一人や二人じゃないが日本に行けない俳優がいたか? 日本にちゃんと行けるから心配するな」
なかなか鋭い反応もあるのだ。
反日」はもはや興行成功のカギにならなくなった
日本帝国時代に植民地支配を受けた暗い過去は、韓国のドラマや映画の定番素材だった。『暗殺』(1270万人動員、2015年公開)、『密偵』(750万人、2016年公開)、『鳳梧洞戦闘』(478万人、2019年公開)などの映画や、『黎明の瞳』(最高視聴率58.4%、91年)、『カクシタル』(22.9%、2012年)、『ミスター・サンシャイン』(18.1%、2018年)といったTVドラマは、韓国人の胸の中に息づく恨(ハン)の情緒に支えられ、大きな成功を収めてきた。
ただ、反日旋風が吹き荒れた文在寅政権の5年間が過ぎた今、韓国の反日ドラマ・反日映画は全く力を発揮できずにいる。
60年の時を経て親日派撲滅に乗り出した80代の老人の活躍を描いた映画『復讐の記憶』(原題『リメンバー』、22年10月公開)は41万人の観客動員にとどまり、朝鮮総督暗殺作戦を描いた『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』(原題『幽霊』、23年1月公開)は65万人、22年12月公開の話題作、安重根を主人公にした『英雄』でさえ319万人と伸び悩み、損益分岐点を越えることができないままスクリーンを閉じた。
当時、韓国メディアでは、「無条件で反日が興行の成功要因になる時代は過ぎ去った」とし、「反日を素材にした、似たようなストーリーの陳腐な映画はもはや韓国の若い観客には通じない」と警告した。そのことはハン・ソヒや音楽監督のSNSの書き込みを、「反日マーケティングではないのか?」とすぐに訝しがる韓国ネット民の反応が証明していると言えるだろう。
しばらく反日素材の映画やドラマが姿を消していたが、最近の日韓和解ムードに対する反動なのか、久々に反日をテーマにした『京城クリーチャー』が登場した。これまでのところ、「ドラマとしての魅力が乏しい」との評価が優勢だが、ハン・ソヒのSNSニュースがテレビなどで紹介されて以降、ネット上で『京城クリーチャー』の話題が盛り上がりを見せている。
1月5日からは第2部の公開が始まる。「反日マーケティング」で序盤の酷評を吹き飛ばし、大どんでん返しを成し遂げられるだろうか。