
中国で、在留邦人や日本人旅行者の安全が懸念されている。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に反発して、北京の日本大使館や各地の日本人学校にレンガ片や石が投げ込まれたうえ、「日本人の入店お断り」との張り紙をする飲食店まで現れたためだ。改正「反スパイ法」の施行で、日本人が突然拘束される危険性も指摘される。松原仁元拉致問題担当相(衆院議員、無所属)と、自民党の和田政宗参院議員は、外務省の「危険情報」を上げるなど安全対策の必要性を訴えた。
「日本は責任ある方法で『核汚染水』を処置しなければならない」
中国の李強首相は6日、インドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3首脳会議で、こう言い放った。第1原発が放出しているのは処理水であり、国際原子力機関(IAEA)も「国際基準に合致する」と評価している。
ナンバー2がこうした姿勢のためか、中国は先月末、日本産水産物を禁輸した。中国国内の日本関係施設には投石などがあったうえ、日本国内の飲食店や役所には迷惑電話が殺到した。中国・大連の焼き肉店は今月4日、「日本人の入店お断り」との張り紙をした動画をSNSに投稿した。当局の撤去要求を店主は拒否したという。
日本人は安全なのか。国家公安委員長の経験もある松原氏は「中国は科学を無視して、国際機関が評価する処理水放出を、政治経済・外交問題としている。日本政府には、日本人の安全を守る責任がある。外務省が発表する海外の『危険情報』のレベルを引き上げるなど、毅然(きぜん)とした意志を示さなければならない。中国全土を危険情報の『レベル1』(=十分注意してください)とし、必要に応じて『レベル2』(=不要不急の渡航は止めてください)以上にすべきだ」と語った。「危険情報」とは、その国の治安情勢などを総合的に判断し、外務省が発出する安全対策の目安である。「レベル1」から、退避勧告の「レベル4」まで4段階ある。
中国は現在、新疆ウイグル自治区とチベット自治区に、レベル1が出されているが、国土の大部分に危険情報は出ていない。
和田氏は「中国は現在、過去の『反日』活動を超える事態になりかねないほど情勢は不穏だ。『危険情報』を的確に発出して、邦人保護に全力を尽くさねばならない。改正『反スパイ法』の施行で、公安当局が在留邦人を拘束する危険性も高い。現地法人の社員らも身の安全を確保し、帰国可能な人は早期に退避すべきだ。政府は中長期の視点で中国リスクへの対応策を練る必要がある」と語っている。