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【ロンドン=黒瀬悦成】英国で中国情報機関の工作員が先端技術情報などを盗み取る目的で、ソーシャルメディアを通じて企業関係者ら2万人以上に接触していたことが明らかになった。英国では9月、英議会調査員の男ら2人が中国のためにスパイ活動をした疑いで逮捕されており、英政府は国内で中国共産党体制が広範なスパイ網を構築しているとみて、その壊滅に全力を挙げる方針だ。

英国での中国工作員の活動実態は、英情報局保安部MI5のマッカラム長官が、米西部で17日に開かれた機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」の会合で明らかにした。この会合では、英語圏5カ国の情報機関トップが初めて公開の場に集った。

マッカラム氏は、中国が英国で人工知能(AI)や量子コンピューター、合成生物学などの先端技術に関する知的財産の窃取を狙っていると指摘。目立った手口として、中国の工作員らがリンクトインなどのビジネス向け交流サイト(SNS)で転職コンサルタントに成りすまし、2万人以上の起業家や研究者、技術者、企業関係者らとのやり取りを通じて機微にわたる技術の提供を働きかけていると訴えた。

MI5は2年前の報告書で、同様の手口の標的になっている英国人を「1万人以上」としており、中国の活動が大規模化している状況が浮き彫りとなった。MI5は、中国企業が英大学から研究データを盗み出したことが確認されたとしている。マッカラム氏はまた、英国内ではロシアとイランによるスパイ活動も頻繁に発覚しているとした。

トゥゲンハット英内務担当相は19日、英テレビ番組に出演し、マッカラム氏から「中国のスパイ網の早急な遮断を目指している」と伝えられたと語った。

5カ国による会合は、中国が過去にない巧妙な手法で米欧などの知的財産を不法に入手し、技術や軍事、経済分野での覇権確立を図っている実態を広く警告する目的で開かれた。

米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は会合で、中国のスパイ活動に絡むFBIの捜査が現時点で2千件を突破したと説明。オーストラリア保安情報機構(ASIO)のバージェス長官も、中国が豪州の権威ある研究機関に「客員教授」の肩書で工作員を送り込み情報窃取を図っていたことが分かり、豪州当局が9月にこの人物を国外退去させたことを明かした。

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