
コスト削減のために「食の安全」が犠牲になっている
食用油と燃料油を同じタンクローリーで運ぶ
中国で、食の安全をめぐる懸念が再燃している。今年7月、食用油と燃料油を同じタンクローリーで搬送していたことが判明し、中国国内の消費者に衝撃を与えた。過去には下水から油分を汲み取ってレストランの料理に使用したり、腐った食材に下痢止めとして使われる薬を混ぜて提供することで期限切れ食材の使用の発覚を防いだりと、衛生環境をめぐる混乱が続いている。中国で食用油と燃料油を同じタンクローリーで輸送した事件は、食品安全に対する深刻な懸念を引き起こした。国営紙「北京日報」が詳細な調査報道を掲載したことで注目を集めたほか、英ガーディアン紙など欧米メディアも相次いで報じている。
北京日報の記者は潜入取材を行い、石炭燃料を積んだタンクローリーの運転手にインタビューを実施した。運転手は中国西部の寧夏ねいかから東海岸の河北省秦皇島しんこうとうまで、1290キロ以上を走ったという。
運転手は記者に「空の車両で戻ることは許されていない」と話した後、タンクローリーを洗浄することなく、河北省の別の施設へとタンクローリーを走らせた。32トン近い大豆油を積み込むためだ。「公然の秘密」になっていた
このような運用はめずらしいことではなく、他のタンクローリーも同様の輸送を行っていたという。この運転手は北京日報に対し、食品と化学燃料を同じタンクローリーで清掃せずに輸送することはよくある「公然の秘密」であると話している。
中国の規定では、食用油と燃料油の輸送に、異なるタンクローリーを使用すると定められている。しかし、調査報告によると、これらの規定は無視されることも多く、検査も不十分であるという。燃料用であることを示す標識を白い紙で覆い、食用油を輸送していると報じられている。
ガーディアン紙はこの問題が、中国国民の「激怒」を引き起こしたと報じている。ブルームバーグは、事件を受け、中国糧食備蓄管理総公司が製造する「金鼎ジンディン」ブランドの食用油のネット販売が一部で停止されたと報じた。
ジョンズ・ホプキンス大学の政治学准教授ジョン・コシロ・ヤスダ氏は、ドイツ国際放送局のドイチェ・ヴェレに対し、「中国は食品システムの改革の初期段階にある」と述べている。中国の食品安全問題は一朝一夕で解決できるものではないとヤスダ氏は指摘する。下水に浮いた油を汲み取り、料理店で2年間使い続けた
過去の食品スキャンダルが記憶に新しい中国では、消費者の不安が高まっている。2008年には、汚染粉ミルクにより6人の乳児が死亡し、30万人以上が被害を受けた。また、2013年には、上海の飲料水の水源である黄浦江で1万6000頭以上の死んだ豚が見つかった。
下水に浮いた油を汲み取り、料理店で2年間使い続けた衝撃的な事件もある。2020年、再生廃油から食用油を精製していた問題が発覚した。再生廃油から有害な食用油を製造した「下水油」スキャンダルだ。下水油とは、レストランのフライヤーや下水、そして排水から油脂分を分離・回収するグリーストラップから回収された廃油をベースに、再加工して作られる油を意味する。元となる油は、下水道のマンホールの蓋を開け、長い棒を差し入れるなどして汲み取られる。
この油には発がん性物質やその他の毒素が含まれている。本来は工業用油として使用されるべきところ、北京を拠点とする英字メディアのベイジナーの報道によると、露天商や大小規模レストランに販売されていた。コスト削減のために下水油を使用するケースも…
同年、山西省の人民裁判所が下した刑事事件の判決によると、陝西省の楡林市にある小龍坎火鍋のフランチャイズ店が、鍋のスープのベースとして下水油を使用していた。中国国営英字紙のグローバル・タイムズは、同店が2年間にわたって2トン以上の下水油をスープに使用していたと報じている。有害な原材料の製造、販売、流通に関与したとして、5人が起訴された。
小龍坎は2014年創業の人気の四川風火鍋チェーン店で、中国全土で急速に店舗数を拡大している。中国本土に1000店舗以上を構え、海外では東京(新宿・上野)、メルボルン、ニューヨークなどの都市にフランチャイズ店を展開している。
北京日報の記者が当時、小籠館食品安全ホットラインに電話したところ、電話口のスタッフは、起訴されたレストランとのフランチャイズ契約を終了したと説明した。さらに、小籠館飲食管理有限公司は謝罪声明を発表し、2019年の調査開始以来、当局に全面的に協力してきたと述べている。
下水油の使用は、この店舗に留まらない。専門家はベイジナーに対し、複数のレストランでコスト削減を目的として下水油が使用されているケースがあり、こうした非合法なビジネスに多くの業者が関与していると説明している。
期限切れの食材でも「下痢止めを混ぜればお腹は壊さず問題ない」
食品スキャンダルは尽きない。昨年には、期限切れの食材に下痢止めとして用いられる薬を混ぜて提供していたことが発覚した。江蘇省南通市のレストランで発生したこの事件は、同店の2人のシェフが関与していた。古い食材による食中毒を防ぐため、ゲンタマイシン硫酸塩を料理に混ぜていたという。
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